ソフト不具合多し
最近、クルマに搭載されているソフトの不具合の話をよく聞く。
・ハイテク装備の高級車、トラブルが続出 (HotWired Japan)
たとえば先月、ダイムラー・クライスラー社のメルセデス・ベンツ部門は、大々的に宣伝していた電子制御ブレーキシステム『センソトロニック』の不具合により、同社史上最大となる68万台のリコールを行なった。センソトロニックは、センサーを使って各ホイールに最適なブレーキ圧を算出するシステムだが、ダイムラー社によると、システムの油圧タンクに発生する気泡がブレーキトラブルを引き起こす可能性があるという。ただし、これによる事故は報告されていない。
また、英ジャガー社も4月に6万7798台をリコールした。電子制御モジュールに、ギアが勝手にバックに入ってしまう可能性のある欠陥が見つかったためだ。
日本車でもこの手の話題に事欠く事は無く、トヨタのプリウスもソフト不具合で突然停止するというニュースがあったりした。
こんな有様なので、新車発表で「新しい機能が加わりました」と聞いても、「それでまた不具合が増えるんだろう」と突っ込みを入れたくなってしまうのである。
何故不具合が多くなった?
では、何故、クルマのソフト不具合は多くなってきているのだろうか。端的に言えば、「クルマに使われるソフトが増えている」からである。
今の自動車の中には電子部品と、それに含まれるソフトが溢れ返っている。エンジン制御ユニット、ワイパーやパワーウインドウを動かすボディ電装系制御ユニット、エアコン制御ユニット、カーナビゲーション、ABS制御ユニット、パワースライドドア制御ユニット、メーター、AT制御ユニット…。室内灯までソフトで制御されているのだから笑ってしまう。
今の自動車はソフトで動いていると言っても過言ではないくらいである。
また、これら膨大な数の電子部品が複雑に関わりあっている事も、ソフト不具合を増大させる原因になっている。
以前は電子部品はそれ単体で動いていた。なので、ソフト不具合が無いか試験をする時も、電子部品単体で行えば良かった。
しかし、今では様々な電子部品が互いに通信を行い、他のユニットと情報をやりとりしながら動いている。エアコンはエンジンと協調して燃費が良くなるように制御され、ABSはエンジンやタイヤからの信号を元にブレーキの調節を行っている。
クルマの中には一大ネットワークが築かれているのである。
高度な機能を実現する為には様々な部品が連動して動く必要があるのだが、そうなると、どの部品が悪いか見つけるのが非常に困難になってくる。それぞれの部品は正常に動いているにも関わらず、システム全体の設計が間違っている為に不具合が生じてしまう事も珍しく無い。電子部品単体をテストしても不具合は発見出来ないシステムになってきているのである。
追い討ち
そんな状況に追い討ちをかけているのが、開発期間の短さと部品の共有化である。
クルマの開発期間は年々短くなる傾向にある為、ソフト不具合を見つける為の検証時間も短くなっている。以前よりもソフトは質的・量的にも大きくなっているにも関わらず、検証時間が短くなるのだから、不具合が増えるのも当然である。
また、コスト要件から同じ部品を幾つかの車種で使う「共有化」が頻繁に行われているが、これにより、一旦不具合が起きると大規模リコールになってしまう事が多いのである。
共有化はコスト削減に大きな威力を発揮する。しかし、同じ部品と言いつつも車種により微妙に仕様が異なる事が多く「殆ど一緒だから大丈夫だろう」と油断していたら、そこに不具合が潜んでいたという事も珍しく無かったりする。
そんなわけで、車載ソフトを取り巻く状況は、年々厳しくなっている。日本の自動車メーカーはソフトウエア開発に対して本腰を入れ始めたようだが、その効果が早く出ることを祈るばかりである。
ソフトの不具合の許容範囲
ところで、クルマに搭載されるソフトウエアの不具合とはどの程度まで許容されるのだろうか。
例えば、最近搭載される車種が増えてきているイモビライザーという装置がある。これはクルマのカギと認証を行い、OKで無ければエンジンがかかる事を防止してしまう装置である。これはどの程度まで不具合が許されるだろうか。以下に具体的な症状を記してみる。
1. 普通に使っていたら、いきなりエンジンがかからないようになってしまい、立ち往生してしまう。
2. 高圧線の下などで、エンジンがかかり難くなる。ただ、2~3回やり直せば、エンジンはかかる。
3. 半年に1回くらい、何故かエンジンがかからない事がある。ただ、2~3回やり直せば、エンジンはかかる。
4. エンジンがかからない事は1回も無く、不具合は全く無い。
1.は絶対に許されない不具合である。こんな不具合を許すようなユーザーはいないだろう。
2. はどうだろうか。ソフトウエアの不具合とは微妙に異なるのだが、周囲の環境に電子部品が影響される事はあり得る話なのである。個人的には「最終的にエンジンがかかるならば、構わないんじゃないか?」と思うのだが、大抵のユーザーは嫌がるレベルの不具合だろう。
3. はかなり微妙なレベルだと思う。私は「全然問題無いじゃないか」と思うのだが、日本車の品質管理レベルではNGだろう。4. のレベルで無ければOKと言われないのが、日本車なのである。
不具合=0は正しい?
実を言うと、私は少し前まで「少しくらいのソフトウエア不具合は許容し、その分、深刻な不具合を無くしたり、より魅力ある製品をつくる事に労力を傾けた方が良いんじゃないか」と思っていたのである。というのも、不具合が出る確率を落とすには膨大な時間がかかり、結果としてコストに跳ね返るからである。
しかし、最近は「不具合=0を目指すのは、良い事なのかも」と思うようになっている。というのも、本当に深刻な不具合が発生したソフトウエアには、沢山の些細な不具合が存在したという傾向があるというからである。「これくらいの不具合ならば良いや」という姿勢が、大きな不具合を作り出してしまうのかも知れない。
あと、「日本車=故障しない」というイメージを世界的に得る事が出来たのも、今まで日本車のメーカーが機械的な不具合を0に潰し込む努力を続けてきたお陰なのである。クルマに使われているソフトウエアが増えている今、「日本車=不具合が無い」というイメージを保ち続けるには、ソフトウエアの分野でも不具合を0に潰し込む努力が必要となるのだろう。
この先、自動車の操作系は全て通信式となり、クルマと自分を繋ぐのはソフトウエアだけ、という方向に行くだろう。個人的には「そんなクルマ、ご勘弁」といった感じなのだが、クルマの進化はそちらに流れているようである。
そんなクルマが世の中で売り出される前に、現在頻出しているクルマのソフトウエア不具合を潰し込む方法が確立し、安心してクルマを運転出来るようになって欲しいものである。